いったい誰が助言し、誰が仕切っているのか?(原発事故対策)
                                  
   2011.4.7
 
 



低濃度汚染水の海への放出

東京電力は4月4日夕刻に記者会見を行い、福島第一原発の高濃度放射性物質を含む汚染水の貯蔵先を確保するため、低濃度の汚染水約11,500トンを海に放出することを発表し、同日19:00過ぎから汚染水の放出を始めた。4/5付読売新聞によると、東電は同日の15:00頃に経産省原子力安全・保安院に報告し、原子炉等規制法第64条に基づく緊急処置として放水の了承を得たという。ところがこの処置は水産業を所管する鹿野農水大臣には事前に知らされておらず、食品安全を所管する厚労省への連絡も発表の直前だった(4/6付読売新聞)という。さらには海に接した隣国の中韓露の各国政府に対しても事前通知がなされておらず、各国の政府関係者から批判の声が上がっている。松本外相は「IAEAにも通報し、外交団向けの説明をしており国際法上問題はない」と開き直ったが、国連海洋法条約では「汚染による損害で危険が及ぶ国への通報」を求めており、枝野官房長官は、5日の記者会見で「・・外交ルートを通じて適切な説明を徹底したい」と述べて不適切な処置であったことを事実上認めた。

 

 

誰が仕切っているのか?

漁業関係者に深刻な影響を与えるだけでなく、国際法にも抵触する恐れがある重大な処置に関する情報が、閣内で横通しされておらず、しかも発表は政府からではなく、東京電力の原子力立地本部長代理によって行われた。原発事故対策を仕切っているのは、いったい誰なのか? どのようなプロセスを経て事故対策に関する意思決定が行われているのか? これが、いま国民が一番知りたいことではないか?

 

 

事故対策統合本部

菅首相は、福島第一原子力発電所の事故発生から4日目の3月15日の早朝、東電に乗り込み「福島原子力発電所事故対策統合本部」を東電本店内に設置すると宣言し、自らが本部長に就任すると発表した。報道によると本部設置の背景には、菅首相の東電に対する不信感があったというが、この本部は既存の法律に基づいて設置されるものではないため、設置の目的や趣旨が条文等で明確化されていない。首相官邸ホームページに掲載された3月15日付の枝野官房長官記者発表による事故対策統合本部の広報文(http://www.kantei.go.jp/jp/tyoukanpress/201103/15_a.html)からそのまま抜き出すと「・・海江田経済産業担当大臣、原則的にそちらで東京電力社長とともに、同時に情報を受け、そして一体となって対応方針を出していく。そして、それを菅内閣総理大臣が全体をしっかりと統一的に動かしていく。こういう体制で正確な迅速な情報を国民の皆さんにお伝えするとともに、時々刻々と変化する対応の一体化を進めようとするものでございます。・・」と設置の目的が示されており、原発事故対策を統括するのは本部長の菅首相であり、これを補佐するのが海江田経産大臣と清水東電社長であることが読み取れる。 

 

 

誰が何をやっているのかが全くみえない故対策統合本部

この記事のほかには対策統合本部の人員、組織構成、所掌などを示す文書は一切存在しない。菅首相は3月15日以降、本部には一度も姿をみせておらず、産経新聞電子版などの報道によると細野豪志補佐官を名代として東電に常駐させて情報収集しているという。3月30日の記者会見で統合本部の会合の議事録を公開するよう求められた枝野官房長官は「統合本部は関係者間で随時、情報交換を行っている。議事録を作成しているものではない」と述べている。官邸ホームページに掲載した広報文では本部の目的を「情報を受けて、・・対応方針を出していく・・」と言っておきながら、その二週間後には本部を「情報交換の場」に後退させてしまっているのだ。本部で誰が何を報告し、何が話し合われたのかは、少数の関係者だけしか知らず、記録も一切残らない。

朝日新聞電子版の「首相の日々」によると、菅首相は毎日少なくとも一回は官邸で細野補佐官と面談しており、情報を受け取っているようだが、菅首相自身が事故対策に関連してどんな指示を出しているのかは、一切伝えられてこない。震災発生後、記者団に対する「ぶらさがり取材」の回数が激減しているように、菅首相は自身の判断ミスや失言、イラ菅と呼ばれる短気な行動がマスコミに取り上げられるのを極端に恐れているようである。産経新聞電子版によると、東電が本店の3階で記者会見を行うときには、記者団が使うエレベータに必ず東電社員がついて、記者が対策統合本部がある2階で降りないようにしているという。情報公開を宣伝文句に政権を奪取したはずの民主党政権が、東電本店の2階に「伏魔殿」を造り、国民の生命を左右しかねない情報まで意図的に隠蔽していると思われてもしかたがない。

 

 

菅首相は、仕切っているのか?

4/6付読売新聞によると「汚染水の放出」は以前から統合本部の検討項目であったというが、これが現実問題となった4月4日に海江田経産大臣は官邸に顔を出していない。つまり東電と一緒に対応方針を決めて菅首相に決裁を仰ぐ立場にあるはすの海江田経産大臣は、この事案の決定には係わっていなかったということになる。おそらく東電が自ら決断し、細野補佐官に説明し、菅首相には、東電が原子力安全・保安院に駆け込んだ15:00の直前、14:31に細野補佐官から伝えられたと思われる。首相はただ黙認したのだろう。ところが、これほど重大な案件であるにも係わらず、菅首相は関係閣僚による情報の共有や、近隣諸国への通知に関する指示は出していない。仕切るはずの菅首相は、現実には仕切っていなかったということになる。報道によると枝野官房長官は4月4日午後の会見で「危険時の緊急措置としてやむを得ないと了承した」と政府全体の判断であることを強調したが、菅首相と政府全体で行った決定であるはずがない。

 

 

技術的判断を行っているのは誰だ?

「汚染水の放出」が技術的に妥当かどうかの第三者的な判断は誰が行ったのか? 原子力安全・保安院が東電の報告を受けた直後、保安院は内閣府原子力安全委員会(班目春樹委員長)に報告して了承を得たという。東電の報告を受けてから了承まで、僅か20分だったという。

国民の多くは、原子力安全・保安院によって下される技術的判断の背後には必ず原子力安全委員会が存在して、判断の妥当性を客観的に検証してくれていると考えているようだが、4/5付読売新聞によると、原子力安全委員会は4月4日になって原発事故発生後、初めて定例会議を開いて原子力安全・保安院から事故関連の報告を受けたという。班目委員長の要請で実現したが、内容に新味はなく委員からの質問も無かったという。定例会議で報告を聞かなければならないほど両者の関係は疎遠だったということだ。会議終了後に記者会見した班目委員長は「(両者)にコミュニケーションが足りないとの指摘がある。連携していきたい」としゃあしゃあと語っている。

原子力安全委員会が無用の長物の立場にあるとすると、客観的な立場で東電や政府に技術的な助言をしている専門家は誰なのであろうか? 現在15人いる内閣官房参与のうち4人が原発事故関係の参与というが、ほとんどが事故発生後に、東電に対して不信感を持った菅首相が、自らへの助言者として急遽任命した人たちであり、東電と友好的な関係のもとで東電に対して効果的な助言を行えるとは思えない。東電が仏のアレバ社や仏原子力庁に要請した専門家や、米国の専門家たちは何処で何をしているのだろうか? 国民には何ひとつ知らされていない。



何故、情報発信元をひとつにしないのか?

 原発事故発生当初、事故に関する情報は、東電の福島事務所、経産省福島第一原子力保安検査官事務所、東電本店、経産省原子力安全・保安院、内閣官房などからバラバラに発表され、発表内容に齟齬もみられたことから外国政府や外国メディアから情報隠蔽を疑われる事態となった。現在、情報発信元は、東電本店、保安院、内閣官房の三本立てとなりつつあるようだが、対策統合本部が存在するのであれば、本部が仕切って発信の一本化を図るのが当然である。前述の官邸ホームページに掲載された本部の広報文には、本部設置の目的のひとつに「国民に正確、迅速な情報を伝える」と書いている。にもかかわらず、菅首相は本部設置の当初からこの目的を放棄している。ただ責任を取りたくないという意思が働いているとしか思えない。

 

責任逃れを図る菅首相?

 「こうなったのは、東電のせいだ。俺は東電を信用していないから対策統合本部を立ちあげるんだ」と派手なパフォーマンスを演じることで、原発事故処理では致命的な「初動の失敗」の責任を東電に押し付けたものの、本部を解消することもできず、そうかといって本部における菅首相自身のミッションである「・・全体をしっかりと統一的に動かしていく・・」ことができる程のリーダシップはさらさら無い。こうなったら、本部の本来の機能のうち、対策検討と意思決定に係わる部分を取り去ってしまい単に情報交換の場にしてしまえばいい。東電から情報だけ取って、子飼いの内閣府参与に知恵を借りて、東電にイチャモンをつけるほうが、はるかに楽ができるし、責任もとらなくて済む。私には、菅首相がこのように考えていると思えてなりません。



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