「ピロリ菌」除菌の顛末 胃が若返った?   2014.5.6    



【十二指腸潰瘍の治癒痕?】


 いつ頃からだったか記憶は定かではないが、勤務先で毎年1回、強制的に受診させられる定期健康診断の「胃部
X線検査」で、私は毎回「要観察」の診断結果を告げられてきた。定期健康診断の担当医師の説明によると、『私の胃袋の幽門と呼ばれる出口付近から十二指腸に至る部分に「十二指腸潰瘍の治癒痕」が存在し、当該部分が過度にくびれている』らしい。そのためX線検査のために飲み込んだ造影剤のバリウムが十二指腸まで到達できず、十二指腸のX線写真が撮れない。従って、十二指腸潰瘍の有無についての診断ができないので「問題無し」と判定するわけにはいかないというのが、その理由である。


  X線
検査では十二指腸にバリウムを送り込めない私の胃袋に対して、担当技師が「おかしいな・・?」を、ブツブツ繰り返しながら、槍術の練習で使うような「突き棒」で、これでもかと言うほどに突いてくる。毎年、これを繰り返すうちにすっかり検査嫌いになってしまった。


 
2005年秋、ピロリ菌の発見者である西オーストリア大学のバリー・マーシャル教授とロビン・ウォレン名誉教授がノーベル医学・生理学賞を共同受賞し、ヘリコバクター・ピロリ菌(p1)の特性や胃潰瘍・十二指腸潰瘍/胃がんとの関係が改めて注目され、消化器系の専門医師や医療ジャーナリストたちが、ピロリ菌が胃の健康を阻害するとんでもない「悪役」であることを巷間に知らしめた。「衛生状態が劣悪だった昭和30年代までに幼・少年期を送った世代の70〜80%は、ピロリ菌に感染しており、胃・十二指腸潰瘍や胃癌を発症する危険性が高い・・」と、衝撃的な事実が明らかにされたのもこの頃である。

  

    p1  ピロリ菌



【確かにピロリ菌がいた】


 ピロリ菌に関する学説と照らし合わせると、少年時代に日常的に井戸水を飲用し、明治
24年生まれの祖父から頻繁に離乳食を口移しで与えられたと聞いている私の胃には確実にピロリ菌がいるに違いない。前述の「十二指腸潰瘍の治癒痕」も、過食した翌日や大酒を呑んだ翌々日に決まったように胃部鈍痛と下痢の症状が現れるのもこのピロリ菌が原因であると私は確信した。4年前に定期健康診断の受診先を元の勤務先に戻したのを機会に「胃リスク検査」と称する「血中抗ヘリコバクターピロリIgG抗体検査」を受検してみると、結果は「陽性」で、確かに私の胃にはピロリ菌がいたのである。


 ピロリ菌の除菌治療は、従来「胃潰瘍」や「十二指腸潰瘍」などに限って健康保険の対象とされてきたが、2013年の2月から、ピロリ菌によって炎症を繰り返す「慢性胃炎」なども健康保険の適用範囲に追加された。これに合わせてテレビのニュースショー番組や健康番組などが、「簡単に胃が若返る」とか、「胃がん予防の切り札」などと、センセーショナルなタイトルを掲げて除菌の効果や除菌方法などをさかんに紹介するようになった。




【激しい下痢で病院へ】


 猛暑が続いた2013年の8月半ば。サンマルク・カフェでアイスコーヒーを飲み過ぎたためか、近くのケーキショップのショートケーキの生クリームが悪さをしたのか・・?、夕刻から胃部の鈍痛と腹部膨満感に加えてゲップが生じ、翌朝から激しい下痢が始まった。手持ちのファモスタジンD(10mg)とナウゼリン(10mg)を服用したが、全く効かず、その翌日も下痢が止まらない。こんな事態は初めてだ。リタイアしてからの健康診断では、胃部X線検査は必須検査項目ではなかったため、この8年間一度も検査は実施していない。ひょっとすると、慢性胃炎どころか、潰瘍や癌などのとんでもない状態になっているのかも知れない・・という懸念が芽生える。とうとう3日目の午後にかかりつけの内科医院を訪ねるが、盆休みで生憎の休診中。翌日、激しい下痢は何とか収まったようだが、胃に違和感が残ったままなので、懸念払拭を目的に車で15分ほどの「済生会病院」に出向く。


 問診票に症状を記入して「消化器科」の受診を希望するが、どういうわけか「内科」に行くように指示される。担当医のA氏に悲惨な三日間について説明し、ピロリ菌検査が陽性であり、胃部X線検査で十二指腸潰瘍の治癒痕があると判定されていることなどを「告白」すると、「・・では胃カメラ検査をしましょう」ということになる。鼻からにしますか? 口からが良いですか? と質問される。しまった・・予備知識が無い・・と慌てる。いつもの私の癖で、鼻中隔湾曲症なのだが・・カメラは通るのだろうか・・とか、口からカメラを挿入したときはポリープなどが有ったときにその組織の採取ができるが、鼻からのときはそうはいかない・・というようなことをネットか新聞の医療コラムで読んだような記憶が・・など雑念が頭の中を駆け巡る。その瞬間、思わず「口で・・」と言ってしまう。担当医は一瞬、エッというような表情をしたが、「分かりました。では口からに・・」となって、「胃カメラ検査」は5日後に実施することが決まった。ガスターD(20mg)を一週間分処方されてその日は帰宅することに。


 帰宅後、胃カメラ検査を何度も受けているという近所のKさんの「口から・・はカメラを飲み込むときにオエッとなる。鼻から・・の方がはるかに楽だ」という話を人づてに聞かされてガックリ。自宅でネット情報にあたると最近の経鼻内視鏡はポリープの切除はできないものの生検(組織の採取)は可能との記事が溢れている。やっぱり鼻にすべきだったか・・と後悔するも、病院で「口から・・」にチェックマークを入れた「胃カメラ検査・・承諾書」にサインをしてしまっているので、今更、変更するのも面倒だ。ネット情報で「鎮静剤を打つとウトウトしている間に終わってしまう」という記事を見つけて、これで行こう!と決めた。「口から・・」で突撃だ。




【胃カメラ検査】


 病院から渡された受検の心得に従って、前日は早めに夕食を済ませ、翌朝の検査まで「水」だけで過ごす。指定された時間に消化器科窓口に受検票を提出し、呼ばれるのを待つ。いよいよカメラを呑むときがきた。食事を摂っていませんね。と念を押されてから血圧測定。ここで看護師さんに「鎮静剤を使うとウトウトしている間に終了すると・・聞いたのですが」とボソボソと言ってみる。看護師さん、キッとした表情で「鎮静剤を使うと車の運転ができませんよ!」と言う。すかさず「車は置いて帰ります」と答える。


 ここからは記憶が錯綜しているが、診療明細書(p2)と照らし合わせると次の手順で進められたようだ。まず、紙コップに入った消化管内ガス排除薬「ガスコンドロップ」の希釈液を飲む。これで胃内部の有泡性粘液を除去するのだ。次にベットに横になりゼリー状の咽頭麻酔薬の「キシロカインビスカス」を喉に流し込んで、暫く喉に留めておく。さらに噴霧式(スプレー式)の「キシロカインポンプスプレー」を咽頭部に噴霧する。次に胃の過剰な蠕動運動を抑制するための「グルカゴンGノボ」を静脈注射する。明細書によると、さらに鎮静剤に相当する「ソセゴン」を注射しているはずだが、打たれたかどうかの記憶が定かでない。

   
     p2  胃カメラ検査の診療明細



 処置室に入るとA医師がカメラの準備をしているところで、いきなり真ん中に孔が空いたマウスピースを口に嵌められる。ベッドに横になると口にカメラが入ってくる。オエッとする瞬間も無く、カメラは喉を通過しており、モニター画面には、驚くほど鮮明な食道らしき画像が映し出されている。あっけないな・・思う間もなく、カメラは胃袋に突入だ。胃の壁面は意外と綺麗だ。カメラが動き、画像が拡大され、凸状ぽい部分を見つけるとハサミが動いて血らしきものが飛び散る。看護師さんに指示が出て周囲も慌ただしい。三箇所ほどの凸状部分で組織が切除された。恐ろしいほどの手際の良さだ。検査中は、ほぼ無痛で、カメラを抜いたときに少々咳き込んだものの、ほとんど苦痛なしで、5分ほどで検査は終了した。明細書に「迅速ウレアーゼ試験」(切り取った組織を尿素とPH指示薬からなる検査試薬に入れる。ピロリ菌が存在するとピロリ菌が持つウレアーゼにより尿素がアンモニアと炭酸ガスに分解されアンモニアが発生してPHが変化するので菌の有無を確認できる)と記載があるので、胃カメラ検査中にピロリ菌の有無の判定も行ったようだ。明細書にある「ソセゴン」は麻薬に準ずる強烈な鎮痛作用を有する薬剤らしいが、検査が終了するまで私の意識はハッキリしており、ウトウトすることは全く無かった。ソセゴンの効き目は人によって異なるらしいので、私には効かなかったのか、効いてはいたが意識にまでは影響しなかったのか、それとも、最初から打って(注射して)いなかったのか、定かではない。[看護師さんに「車は置いて帰る」と話したが、運転に支障が出るような状態では全くなかったので検査後、直ぐに車で帰宅した。]


 検査後、A医師から次のような所見の説明があった。『ポリープ様の盛り上がった部分が三箇所あったので組織を採取した。悪性のものでは無いだろう。生検の結果が出るまでに1週間かかる。潰瘍は無い。十二指腸潰瘍の治癒痕があるという話だったが、治癒痕は無い。ひどい下痢症状の原因はよく分からない。食道の出口付近に胃炎の兆候があるが、ひどい下痢症状の原因ではないでしょう。ピロリ菌は確かにいるので除菌しましょう』


 ピロリ菌の除菌については望むところだが、十二指腸潰瘍の治癒痕が無いとの診断結果には驚いた。毎年、受診していた胃部X検査はいったい何だったのだろうか? モノクロの二次元の陰影だけを手掛かりに診断するX線検査の限界を思い知る羽目になる。




【除菌治療 薬剤の処方】


 胃カメラ検査から16日後、再びA医師と面談。生検結果は問題無し(ポリープ状突起部は「悪性」のものではない)で、いよいよピロリ菌の除菌開始だ。A医師から「ヘリコバスターピロリ菌の除菌療法とは」と表題に書かれたA4サイズの二枚の解説書を手渡されて、説明を受ける。ネット情報によると最近の除菌の成功率は、70〜80%らしいので、「除菌に失敗することもあるんですよね?」と俄(にわ)か知識をひけらかしてみると、あっさり「ありません」と回答されてしまう。どうやらA医師は、未だ除菌失敗を経験していないようだ。


 除菌治療に使用する薬剤は、胃酸の分泌を抑制するプロトンポンプ阻害薬に二種類の抗生物質を組み合わせるのが一般的で、プロトンポンプ阻害薬で胃酸を抑えながら抗生物質でピロリ菌を殺すという方法が採用される。具体的にどの薬剤を使用するかは医療機関ごとに異なるようで、A医師の処方は、次のとおりだった。


<フェーズT(p3)

@ パリエット錠10mg(胃酸の分泌の抑制)  朝・夕 各1錠

A クラリス錠 200 (抗生物質)   朝・夕 各1錠

B パセトシンカプセル(抗生物質)  朝・夕 各3カプセル

これらを7日間服用する。

    
      p3   除菌治療に使用した薬剤


<フェーズU(p4)

 フェーズT完了後、胃酸分泌抑制薬剤である「ガスターD 20mg」(ジェネリック薬が多数存在します)を1日2回、朝・夕各1錠、4週間以上服用する。


    
    p4 ガスターD


 除菌が成功したかどうかについては、フェーズUが完了した約1ヶ月後に「尿素呼気法」を用いてピロリ菌の有無を検査して判定する。


 病院の近くの薬局で、処方された薬剤を受け取る。薬剤師さんに除菌治療中の「飲酒」の可否について尋ねると、「除菌中は禁酒してください。お酒を飲むと(除菌に)失敗しますよ」の厳しいお言葉がある。「抗生剤を使うとよく下痢するので、ビオフェルミンなどを併用した方が・・」と訊いてみると、「ビオフェルミンを一緒に呑むといいですね。除菌効果を高めるにはヨーグルトもいいですよ」とのお話。帰宅してネット情報にあたると「除菌の3週間前から180g/日のヨーグルトを摂取すると除菌の成功率が12%高まる(東海大学医学部の古賀泰裕教授)」など、確かにヨーグルトの効果を紹介する報告が存在するようだ。




【除菌治療 フェーズT】


 薬剤を受け取った翌日から服用を開始する。ビオフェルミンも併せて服用するほか、ヨーグルトを200g/日程度、摂取することにした。もちろん、この1週間は「禁酒」である。ヨーグルトは、ネット情報によると「LG21乳酸菌」がピロリ菌抑制効果に優れているらしいが、近くのスーパやドラッグストアで買いだめした「Bifix」、「恵」、「ブルガリア」(p5)などが冷蔵庫に残っているので、これを使うことにした。


   
   p5 手持ちのヨーグルトで・・・


 ネット情報によると除菌用の薬剤の服用によって、下痢・軟便、味覚異常、肝機能障害、アレルギー反応などの副作用が生じることがあるようだが、ビオフェルミンやヨーグルトが功を奏したのか、心配した「下痢・軟便」は軽微で、大きな副作用なしで除菌治療の7日間を終了できた。




【除菌治療 フェーズU】


 除菌後は胃酸の分泌が活発になるため胃酸の食道への逆流による胸やけなどの症状などが生じるので、これを抑制するため、ヒスタミンH2受容体拮抗薬の一つである「ガスターD 20mg」を1日2回、朝・夕各1錠づつ服用する。A医師からは、4週間服用するよう指示されたが、飲み忘れてしまうことが多く、その場合でも胸やけなどの症状がなかったため、結局2週間ほどで服用を止めてしまった。


 除菌治療完了から1週間ほど経った週末に久しぶりに大酒を喰らい、千鳥足で帰宅する羽目になったが、定番の胃痛や下痢が全く無かった。ゲップはあるものの、胃部の不快感は完全に消え、不思議なことに「オナラ」の悪臭まで軽減したのだ。




【尿素呼気試験】


 フェーズUが完了してから約1ケ月後(除菌のための服薬完了の約8週間後)に除菌の成否を判定するための「尿素呼気試験」を受ける。ピロリ菌はウレアーゼという酵素を持っており、尿素を分解してアンモニアと二酸化炭素(CO2)を生成する。二酸化炭素は速やかに体内に吸収されて、肺から呼気中に二酸化炭素のガスとして排泄される。従って、尿素を含む検査薬(13C−尿素)を胃袋に流し込むと、ピロリ菌が存在する場合は、呼気中に二酸化炭素(13CO2)が検出される。二酸化炭素(13CO2)が検出されないときは、ピロリ菌がいない、即ち除菌に成功したと判断できる。これが「尿素呼気試験」の原理だという。


 胃カメラのときと同様に朝一番から絶食して、指示された時間までに受検票を消化器科の窓口に提出する。待合室で待機していると、名前を呼ばれる。私のほかに中年の女性と男性がそれぞれ一人の計3人が同時に受験するようだ。


@ まず、白い紙袋に呼気の吹き込み口がついた丁度、マンナンライフの蒟蒻畑(こんにゃくばたけ)をビックサイズにしたような形状の呼気採取袋に「息」を吹き込む。

A 次に検査薬(ユービット錠100mg)を水(約100ml)で、かまずに速やかに飲む。その後、ベットに体の左側を下にして5分間横になる。

B さらに待合室に戻って、椅子に腰掛けて約15分間待機する。

C 再び名前を呼ばれて、上記@と同じ形状の呼気採取袋に息を吹き込む。

 以上で「尿素呼気試験」は完了だ。




【除菌判定】


 「尿素呼気試験」から1週間後、A医師から判定結果の説明を受ける。赤外分光分析装置で測定した「尿素呼気試験」での二酸化炭素(13CO2)の量が、2.5 パーミル(0/00)以上であれば、ピロリ菌「陽性」と判定するということのようだが、私の試験結果は、0.0パーミル。除菌成功だ。


 A医師から「その後、胃の具合はどうですか?」の質問があり、「快調ですが、ゲップがよく出る」と話すと、胃腸内のガス成分を除去できる「ガスコン錠40mg」を処方される。




【除菌後、胃が若返った?】


 除菌完了後は、大酒を食らっても胃痛や下痢どころか胃部不快感さえ全く無くなったことは前述しましたが、最も特徴的なのは、憚りながら「便」でした。テレビの健康関連番組などでは、よく健康な人の「便」を「バナナ型、黄金色」と形容しているようですが、まさにこのような「便」が排出されるようになりました。以前のような黒っぽい柔らかい奴ではありません。胃袋が若返った証拠なのでしょうか? 

 即断は禁物です。もう暫くデータを集める必要があるのかもしれません。巷間では、ピロリ菌を除菌すると「胃酸の分泌が活発になって、却って逆流性食道炎に罹患し易くなり、結果として食道癌につながる」とその弊害を聲高に指摘する人もいるようですが、私個人としては、胃袋の不快感から解放されただけで、もう大満足です。




【除菌費用】


 除菌完了までに要した費用(医療費)は、概算の自己負担額が16,000円程度でした。明細は次のとおりです。保険適用で除菌すれば、5,000〜6,000円で可能だと喧伝しているネットサイトもあるようですが、保険適用の場合でも「胃カメラ」で胃潰瘍又は胃炎の判定を受ける必要がありますので、確実に1万円は超えると思います。

@ 胃カメラ検査    ¥33,960   自己負担額(3割) ¥10,190

迅速ウレアーゼ試験/胃・十二指腸ファイバスコピー/

内視鏡下生検/免疫学的検査判断/病理組織標本作製/

組織診断・病理診断管理など    

A 除菌治療用薬剤    ¥8,650   自己負担額(3割) ¥2,595   

  パリエット錠10mg  ¥2,800

  クラリス錠 200     ¥1,610

パセトシンカプセル   ¥500

ガスターD 20mg      ¥3,740(ジェネリック有り)

         計 ¥8,650

B 尿素呼気試験等    ¥5,700   自己負担額(3割) ¥1,710

  尿素呼気試験/微生物学的検査判断/ユービット錠

C その他(診察料など)       自己負担額(3割) ¥1,500



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